治療には「薬」がよく効く
田辺先生の治療は、精神療法と投薬の2本立て。精神療法とは、自分の問題を自分で気づき、解決していけるようになること。自分を縛っているものを、自分で解き放っていくこと、とおっしゃる。たとえば、クリニックを訪れるほとんどの人が「自分の普通」、つまり自分の基準や目標設定を持っているが、その人の状況からみるとそれが適当ではないことが多い。それからはずれている、
その目標に届かないと悩んでいたりする。どうみても目標が高すぎる、普通ではない、そんなに働いていると本当に死んじゃうよ、と諭すモーレツ会社人間も、自分ではそれに気づいていない。そのような人たちも、お互いの関係ができてきて、心の内をいろいろ話すことができるようになると、だんだん自分を客観的に観られるようになっていく。
この過程のあいだ、先生からああしたら、こうしたらと指示を出すことはない。患者さんの言葉にひたすら耳をかたむけ、その心に寄り添い、鏡となって気づいてもらえるよう、全身全霊を込めて診察する。
さて、もうひとつの治療の柱、投薬。ここでは、西洋医学の薬と漢方薬を併用している。漢方は、西洋医学では説明のはっきりできない、身体のゆがみを直し、落ちてしまった体力を元に戻すことに力を発揮する。それと病状にストレートに効く西洋医学の薬を組み合わせるわけだ。たとえば手術後に体力が落ちてうつ状態になったのなら、漢方で体力を上げ抗うつ剤を飲む。月経前のイライラや不安感、女性特有の問題にも漢方はよく効く。
精神科の薬を飲むことに抵抗のある人は多い。もちろん常用していることを誰にも知られたくないだろう。でも血圧の高い人が血圧降下剤を飲むことをいやがるだろうか。胃腸の悪い人が内科の薬を飲んでいることを隠すだろうか。精神科の薬も適正に飲むかぎりは、大丈夫、まったく問題はない。眠れないまま、ぼーっとした様子で会社に行きつらい思いをするより、薬を飲んでよく眠り、すっきりとして仕事をしたほうが、能率が上がりストレスも少なくなる。
うまく薬を使うことは、より良い生活に近づき、上手に生きる方法です。そもそも、都会の生活は形態としての利便性のためにあるので、ストレスなく精神的に落ち着ける場所ではないのです。自然と切り離され、効率優先で、人間の心が蝕まれていく状態なのですから。