症状にとらわれない漢方的処万で「ゆかみ」を整える
アトピー治療を漢方で行っている医師に松田クリニックの松田治己院長がいる。
松田クリニックを訪れるのは、「比較的こじれた状態の患者さんが多いですね」というように、せっぱ詰まった症状が多い。
「最終的には症状が改善した方でも、治療過程で診察のたびに泣かれたこともあり、そういうときはこちらも辛いです」
漢方での診断「証」を得るには、まず、体を健康に保つための3要素である「気」「血」「水」のいずれに異常があって体のバランスを崩しているのかを探す。「気」は生命活動のエネルギー源だから、気が充実していれば問題はない。気が不足気味の「気虚」や「気」が停滞している「気欝」、気が逆流している「気逆」が問題になる。「血」は血液および血液循環に関与するほか、さまざまな内分泌・代謝系の機能を含んでいる。血が不足すれば「血虚」、血の流れが滞っていると「お血」となる。「水」は血液以外の体液部分のことで、水の流れが滞ることを「水滞」、それによって起こる状態を「水毒」という。
また、気・血・水とも関連しつつ、体の機能を調節するものとして五臓があり、この機能異常の有無も考慮する。
五臓とは、肝、心、脾、肺、腎のことで、「肝」は精神活動を安定させたり、新陳代謝を盛んにし、「血」を貯蔵して全身に栄養を供給する、などの働きをもち、「心」は、意識水準を保ち、覚醒睡眠のリズムを調節したり「血」を循環させる役目を担っている。「脾」は消化吸収機能に関係し、「血」の流れをなめらかにする。「肺」は呼吸によってエネルギーを取り入れ、「血」「水」を生成し、皮膚の機能をコントロールする。そして、患者の現在の病勢と闘病能力を、陰陽・虚実で診断する。
「陰」とは、病気が体の内部に達し、活発な症状として現れにくく、全体的に冷えを伴っている状態。顔や患部が蒼白で新陳代謝が低下している、とみる。
逆に「陽」は、病気によって現れる症状が活発であり、活動的で熱状を伴っている状態を指す。
そして、「虚」は闘病能力が低下した状態で、一般には体力のない人といえる。その対になっている「実」は、闘病反応が強く一般的には体力のある人。
この陰陽・虚実で、症状にとらわれない患者のその時点での治癒力を判定する。
最後に、アトピー症状のレベルが問題になる。出始めで比較的軽いのか、症状が長期間続いて皮膚も心身状態も複雑化して、その結果、体の回復能力が消耗しきった状態なのか、である。これが「六病位」と呼ばれるもので、いわゆる病気のステージ分類である。
「これらの要素の絡み具合いから、体のどこがバランスを崩しているのか、どこに何が足りないのか、どこで何が滞っているのか、を探るのが漢方療法であり漢方治療です」と松田院長。
患者の体のリズムの「ゆがみ」を矯正し、患者が本来持っている健康な体に戻していく作業は、まさに試行錯誤の連続だ。
「表3処方して2、3日で改善が見られる患者さんもいますし、何ヵ月もかかる患者さんもいます。だいたい1〜2週間を目安に変化を見ていきますが、改善への手がかりを得るまで患者さんが辛抱ができるかど・うか、ですね」
あまりに症状がひどいときには抗ヒスタミン剤やステロイド剤、抗アレルギー剤を使うこともある、という松田院長は、
「ひどいかゆみを抑えたり、症状を和らげることは必要だと思います。ひどい症状を長引かせるのはこじらせることにもなります。もちろん、漢方だけの治療を求める人にはそのようにしますが、私としては一時的な併用は患者さんの負担を少なくできると考えています」
症状が軽減すれば、本格的な体質強化がそれだけ早くできる。
「アトピーに完治はありません。いつどこで症状が出るかわからない。だから、症状が出ないように、出ても軽くすむように抵抗力をつけておかなければなりません。たいていの患者さんは症状が消えると治ったと勘違いしますが、症状がおさまっただけで、再発の可能性がなくなったわけではありません」
通年性のアトピーであれば症状が消えてから1年は様子をみるべきだし、シーズン性のものであれば、治まった次のシーズンを越えられるかどうか、がポイントだ。それで変化がなければ「鎮静」しているとみる。
また、常に肌をきれいにしておく心遣いや症状の原因となること、増悪因子を避けることは症状が消えても忘れてはならない、と松田院長はいう。
「スキンケアや原因・増悪因子の除去は治療の基本です」
こうした日頃の気遣いこそ、アトピー症状を悪化させない最もシンプルな予防であり治療なのだ。