細胞の老化とテロメア
テロメアは、人の細胞内で発見された46種類の染色体のそれぞれの末端に位置する生物学組織です。二重らせん構造のDNA分子を末端で結びつけ、ほぐれを防止し、安定化を図っています。外観は靴紐の先端のように見え、より大きな組織を損傷から守る役目を果たします。そして、細胞分裂を起こすごとに自分の一部を犠牲にして、染色体を保護する機能を発揮します。
ところで、このテロメアは細胞分裂を繰り返すたびに短縮し、ある程度まで短くなると細胞は分裂する能力を失い、その機能も消失してしまって染色体を維持できなくなり、やがて細胞は死滅します。これが人間も含めた多細胞生物の死の原因の一つと考えられています。
しかも、細胞分裂の回数はテロメア自身が決めていることから、これこそが老化を進行させる根源だという考え方が、学者の間で定説になりつつあります。
たとえていうと、私たちは細胞分裂のたびにテロメアという「回数券」を使い、その回数券を使い果たしてしまうと、あとは老化と死があるばかり。もしあなたが50歳なら、すでに50回分の回数券を使っており、残された人生はあらかじめプログラムされたテロメアの短縮回数に従うしかないというわけなのです。
テロメアを再生する酵素テロメラーゼ
このテロメア構造とでもいうべき分子は、何によって作られるかというと、テロメラーゼと呼ばれる酵素です。しかも、細胞分裂の繰り返しによってテロメアが短くなれば、テロメラーゼが修復してその長さを維持するように働きます。もしテロメラーゼが十分な活性を示していれば、テロメアは決して減少することがありません。つまり老化とも無縁で、その結果、長寿を実現することも可能となるのです。
1997年、ダラスにあるテキサス大学南西医科センターとカリフォルニア・メロンパークのゲロン社の研究者たちは、テロメラーゼがどのように合成され、永遠に人の細胞を働かすようになるのか、その仕組みを解明しました。それによると、テロメラーゼを与えられた細胞はその老衰したテロメアを修復・再生し、その後、さらに細胞分裂を続けてもテロメアは少しも失なわれず、細胞は不死に近い状態になったのです。この研究成果は長寿と抗老化医学の研究に従事するものにとって、大きな意味を持つものとなりました。
その一方で、次のような事例もあります。1998年1月、76歳の老人(男性)と、孫にあたる27歳の男性のテロメアを調べてみると、老人の細胞内から76%のテロメアが減少していたのに対し、49歳も年下の孫からもすでにテロメアが40%も失われていたのです。この数字は、私たちの老化が意外と若い時期から始まることを教えるものでした。
テロメラーゼ酵素によるテロメアの修復・再生という事実と、予想外に早い老化の始まり。このふたつの発見は、長寿(=不死)のカギを握るテロメアと、それを維持するテロメラーゼを長寿の実現にどう利用すればよいか、というヒントを私たちに与えるものですが、それにはまだまだ時間がかることが予想されます。
そこで新しい役割を担うことになるのが、ホルモンなのです。ある種のホルモンを補充することによって、テロメラーゼの活性を促進するというのは、私たちの研究によってすでに明らかとなっています。ホルモンがテロメラーゼにどう作用して、テロメアの修復・再生をもたらすのか。ホルモンとテロメラーゼの相互作用を理解していただく前に、まず、体内のホルモンとその仕組み、働きなどについてお話しなければなりません。